カスハラとは、カスタマーハラスメントの略称で、一般には「顧客等からの著しい迷惑行為」とされます。より正確には、厚労省によると、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されます。
率直に言って、この定義では、カスハラと正当なクレームの違いがよく分かりませんし、現場の従業員としては、具体的にどうすればいいのかも分からないでしょう。
カスハラと正当なクレームの違いを考えるうえでは、以下の3つのポイントを注意いただければ、概ね区別することができると思います。
会社に落ち度はあるか?
顧客に提供した商品・サービスに問題がなく、かつ、対応した従業員の言動・態度にも問題がない場合には、会社には何らの落ち度もありませんから、顧客のクレームは正当なものではなく、カスハラと認定してよいでしょう。
他方、顧客に提供した商品・サービスに何らの問題があるか、または、商品・サービスを提供する際の言動・態度にも問題があるかのいずれかの場合には、さらに②「要求が正当か?」や③「手段が正当か?」も検討しなければなりません。
要求が正当か?
まず、例えば、ある商品が故障していたときに、商品の交換や代金の返還を提案したにも関わらず、商品代金をはるかに上回る法外な金額を要求されたなど、発生した問題の程度を超えて過剰な要求をされたことがあります。このような場合は、顧客の要求がバランスを欠くととなり、正当なものとは言えませんから、カスハラと認定してよいでしょう。
また、顧客に提供した商品・サービスに問題がなくても、商品・サービスを提供する際の言動・態度に問題があったときに、「従業員を辞めさせろ」、「社長を出せ」などと理不尽な要求をされることがあります。このような場合も、要求内容が正当なものとは言えず、カスハラと認定してよいでしょう。
他方、上記のような場合に当たらず、要求内容自体が正当なものである場合には、更に③「手段が正当か?」を検討しなければなりません。
手段が正当か?
仮に要求が正当であったとしても、その要求を実現するために、暴力をふるった場合は、手段が正当とは言えないので、カスハラになります。
また、同様に要求が正当であったとしても、例えば、「殺すぞ」、「無事に帰れると思うな。」、「SNSに乗せるぞ」などと脅迫をした場合も、手段が正当とは言えないので、カスハラに当たります。
それでは、要求は正当であるものの、「店に長時間居座る」、「上司を出せと執拗に言う。」、「内容自体は穏当であるものの、毎日のように電話を行う。」、「内容自体は穏当であるものの、関係のない部署にも何度も電話を行う。」、「内容自体は穏当であるものの、長文のメールを何度も送る」などの場合はどうでしょうか?
程度にもよりますが、これらも要求を実現するための手段が正当なものと言えないため、カスハラに当たる可能性が高いです。
以上の3つのポイントを図にすると以下のようになります。
以上の区別の仕方は、大まかなものであくまでもひとつの目安として考えてください。実際には、多種多様な事案において、カスハラと正当なクレームの区別は難しい場合も多く、より詳しくお知りになりたい方は、当事務所のカスハラ研修をご依頼いただくか、当事務所にお問い合わせをしてください。
弁護士 能勢章