カスハラが増えたかどうか正確には言えませんが、以前よりもカスハラ問題をメディアなどが取り上げられる機会が増えています。私が弁護士として取り扱う件数も数年前より増えています。カスハラの正確な増加件数までは分かりませんが、少なくともこれまで水面下で処理されていたカスハラ問題が徐々に表に出てくるようになったということは言えるのではないでしょうか。
それではなぜカスハラ問題がより表に出るようになったのでしょうか?
それは企業側の姿勢の変化によってより表に出るようになったと思います。
これまでは、企業としては、「面倒な顧客をうまくさばいてくれ」という態度で、一部の従業員に任せきりで放置するか、もしくは、謝罪する必要もないのに従業員に謝罪するように強要するということもあったかと思います。もちろんそれでうまくいくときもあったかもしれませんが、その処理を行った従業員の中には精神的苦痛を感じて辞める人もいて、結果的に使い捨てと言われかねない状況もありました。ところが近年の人手不足が生じる中で、そのようことで辞められたりすると困ることになるので、企業としては、現場の従業員を手厚く守ろうという姿勢に変わってきたように感じます。
また、これまでは、企業としては、クレームは製品やサービスの質の向上に役立つものだからどんなクレームに対しても誠実に対応すべきという意識があって、カスハラ行為を行う相手に対しても、お客様として丁寧に扱うべきという風潮があったかと思います。しかしながら、「殺すぞ」とか「土下座しろ」とか言われるようなカスハラ行為に我慢して対応しても製品やサービスの品質向上に何ら結びつきません。それどころか対応する従業員に精神的苦痛を与えてしまい貴重な従業員を失いかねず、結果的に製品やサービスの品質低下を招きかねません。そうした経験を通じて、企業の姿勢も変わったのだと思います。
さらに言えば、カスハラに対する世の中の見方も変わってきたように感じます。SNSでこの会社の対応がひどいという動画を流しても、逆にひどいカスハラだとの批判を浴びて、企業に同情が集まることもあります。そうであるならば、企業としてカスハラ行為に対してはやるべきことをやる方が世間一般の理解も得られやすいとも言え、世の中の見方の変化が企業の意識の変化を促してる側面もあります。
このように企業側の意識の変化とそれを促す世の中の見方の変化によって、これまで水面下で処理されてきたカスハラ問題が徐々に表に出てきた結果、カスハラ問題が増えたと感じているのではないでしょうか。
弁護士 能勢章