2024年10月4日、東京都において、全国で初めてとなるカスハラ防止条例が成立しました。来年4月1日に施行される予定です。このカスハラ防止条例は、カスハラを「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為であり、就業環境を害するもの」と定義し、カスハラとしての不当な行為の代表的なものを今後ガイドラインに具体的に列挙するとのことです。
東京都が2024年7月に公開した「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」によれば、東京都のカスハラ防止条例は、
「カスタマーハラスメントは、個々の職場や事業者にとどまらず、社会全体で対応していくことが必要不可欠である。」、
「誰もがカスタマーハラスメントを受ける側にも行う側にもなり得るという視点も不可欠である」、
「顧客等と働く全ての人とが対等な立場に立って、互いに尊重し合うとともに、カスタマーハラスメントのない公正で持続可能な社会を目指していく」
といった趣旨で、事業者だけでなく、顧客に対してもカスハラ防止を求めています。
そのため、事業者に対して、カスハラ防止のための取組みを求めるだけでなく、顧客に対しても、
「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない。」
としてカスハラの禁止を定めました。
確かに、事業者のみならず、顧客に対してもカスハラの防止を求める点で画期的とも言え、その点に関しては評価に値すると言えるでしょう。
しかしながら、このような規定が定められることで、カスハラをなくすことはできるでしょうか。
それはあり得ないと思います。
カスハラを行う顧客には、「独自の正義感をもっている」という特徴があります。この場合の正義感とは大抵身勝手で歪んだものなのですが、本人の中ではそれが軸として揺るがない強固なものとして確立しています。そのため、対応した従業員が何を言っても説得には応じないし、なかなか引き下がらないという傾向があります。
いくら条例で「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない。」と規定しても,カスハラを行う顧客は、自分が正しいと思って行動しているわけですから、自らの行為がカスハラに当たるという認識を持っていません。条例で対象となるカスハラ行為にまさか自分が該当するなどと思うこともないでしょう。カスハラを行う顧客からすれば、自己の行為がカスハラに当たるとは思っていない以上、カスハラ防止条例の規定が抑止力になることはないと言えるでしょう。
東京都のカスハラ防止条例には、カスハラ行為に対する罰則は定められていません。
本来、正当なクレームは業務改善やサービス向上につながるもので不当に制限されるものではありませんから、正当なクレームを出すことを躊躇させかねないため、より効果的な罰則規定を設けなかったのだと思われます。
仮に罰則があれば、自分が正しいと思って行動しているカスハラ顧客も、罰則によって痛い目にあうわけですから、自らの行為を顧みる機会があるのですが、罰則がなければ、そうした機会がなく、いつまでも独自の正義感に酔いしれてカスハラ行為を続ける可能性があるのです。
従いまして、今回の東京都のカスハラ防止条例では、カスハラをなくすことはできないと言えるでしょう。