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会社が対抗手段としてカスハラ加害者の顔写真や動画をSNSなどで公開するのは許されますか?(下)

以下、「会社が対抗手段としてカスハラ加害者の顔写真や動画をSNSなどで公開するのは許されますか?(上)」の続きです。

カスハラ加害者の顔写真や動画をSNSなどで公開することは、民法上の不法行為である名誉毀損に該当するかについて検討します。

名誉毀損とは、その人の社会的評価(名誉)を低下させることです。

説明文を付して写真掲載をするという公表の内容が、人の社会的評価(名誉)を低下させるか否かについては、一般の人の普通の注意と観察の仕方・捉え方とを基準として判断すべきものです(最高裁判所の昭和31年7月20日の民事判決参照)。

そうすると、企業側が、説明文を付して写真掲載することは、一般の人の普通の注意と観察の仕方・捉え方を基準とすれば、カスハラに及んだという事実を摘示するものと認められるから、カスハラ加害者の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値についての社会的評価(名誉)を低下させることは明らかです。

企業側は、民法上、原則として、少なくとも過失により、被害者の名誉権を侵害したものとして、不法行為責任を負います(民法709条、710条)。

民法710条は、「他人の名誉を侵害した場合」に、財産権以外の損害に対しても賠償義務を負う旨を定めており、不法行為者は、被害者に対し、金銭的な損害賠償の責任を負うことになります。

また、民法723条は、「名誉毀損における原状回復」として、裁判所が、他人の名誉を毀損した者に対し、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、「名誉を回復するのに適当な処分」(例えば、「謝罪広告」)を命ずることができると定めています。

このように、写真掲載した会社は、民事上の名誉毀損として、原則的には、不法行為責任(民法709条)を問われ、損害賠償請求されたり、謝罪広告を命じられたりする可能性があります。

しかし、刑事上の罪で触れたように、理論的には、会社が写真掲載しても、名誉毀損罪が成立しない場合もあり得るので、最高裁判所は、昭和41年6月23日の民事判決で、「民事上の不法行為たる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(このことは、刑法230条の2の規定の趣旨からも十分窺うことができる。)。」と判示しています。

したがって、カスハラ加害者が多数の企業に対し、犯罪に当たるカスハラを組織的に行う事態が想定されるのであれば、写真掲載は、「事実の公共性」及び「目的の公益性」の両方の要件が認められるため、「真実性の証明」があるときは、その行為には違法性がなく、不法行為は成立しないことになります。

次に、肖像権について検討してみましょう。

肖像権は、著作権法などで明確に規定されている権利ではないが、憲法から導き出される人格権と解され、判例により認められた権利です。

肖像は、個人の人格の象徴ですから、当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容貌、姿態を撮影されず、又は自己の容貌、姿態を撮影された写真や動画をみだりに公表されない権利を有すると解されます(最高裁判所の昭和44年12月24日の大法廷刑事判決、平成17年11月10日の民事判決及び平成24年2月2日の民事判決各参照)。

ところで、カスハラを受けた際に、カスハラ加害者の容貌、姿態をその承諾なく撮影することによって、同人の肖像権を侵害することになるとはいえ、企業側の自己防衛の観点から、他の重大な法益を保護するために必要不可欠である場合には、正当防衛の法理により写真や動画の撮影は、違法性が阻却されると解されます(ブログ「カスハラを受けた際に、無断で録音・録画することは許されるのか?」参照)。

では、カスハラ加害者の容貌、姿態が撮影された写真や動画を公表することは、どう考えたらよいのでしょうか。

企業側の写真掲載による公表が、➀当該公表が、公共の利害に関する事実(すなわち「事実の公共性」)でないとき、②当該公表が、社会全体の利益を図るという目的(すなわち「目的の公益性」)でないときの両方、あるいはその一方に該当すれば、③当該公表が、社会通念上カスハラ加害者の利益を害するおそれがあるときに当たり、カスハラ加害者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超えるといえ、肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解すべきです。

そこでまず、前提となる事実を確認しておくと、➀公表の対象者は、クレームをつける一般の人で、カスハラ加害者であること、②カスハラとなるのは、カスハラ加害者からのクレーム・言動の要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害された場合であること、③公表の方法は、不特定多数の人に認識させるため、カスハラ加害者の顔写真を店頭に張り出すことと、カスハラ場面の動画をSNSやホームページに載せることであること、④公表の目的は、カスハラに及んだカスハラ加害者を特定し、世間の目に晒して警鐘を鳴らすためであること、⑤公表の必要性は、労働者の就業環境が害されるのを防ぐため、カスハラ加害者を糾弾し、カスハラに及ばないように警告して、カスハラに及ぶことを防止するためであること、以上になります。

そこで検討すると、
➀カスハラ加害者からのクレーム・言動の要求を実現するための手段・態様が、私人でも現行犯逮捕できるだけの犯罪の明白性が認められないこと(写真掲載の公表に「事実の公共性」がないことになります。ただし、カスハラ行為者に犯罪の明白性があれば「事実の公共性」が認められることになります)
②カスハラに及べばカスハラ加害者として特定し、世間の目に晒すという警鐘を鳴らして、カスハラを防止することによって、労働者をカスハラから守る必要があるというのは、当該企業のための利益にすぎず、社会全体の利益を図るという目的があるとはいえないこと(写真掲載の公表に「目的の公益性」がないことになります。ただし、「カスハラ加害者が多数の企業に対し、犯罪に当たるカスハラを組織的に行う事態が想定できる場合」には、「目的の公益性」が認められることになります) 
③「事実の公共性」及び「目的の公益性」の両方が認められれば、当該公表による社会全体の利益の方が、社会通念上当該公表によって害されるカスハラ加害者の利益に優るといえること(写真掲載の公表に「社会通念上カスハラ加害者の利益を害するおそれがある」とはいえないことになります。ただし、「事実の公共性」及び「目的の公益性」の両方、あるいはその一方しか認められなければ、カスハラに及んだとはいえ、犯罪とは無縁の人を糾弾するため、あるいは企業のみの利益のために、又はその両方のために、写真掲載によって公表したことになり、「社会通念上カスハラ加害者の利益を害するおそれがある」といえることになります)

以上のとおりになります。

したがって、「事実の公共性」及び「目的の公益性」の両方、あるいはその一方しか認められなければ、「社会通念上カスハラ加害者の利益を害するおそれがある」といえることになり、企業は、カスハラ加害者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超え、肖像権を侵害するものとして、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

本稿では、カスハラ加害者の顔写真を店頭に張り出したり、カスハラ場面の動画をSNSやホームページに載せた場合、法律上どのような問題があるのかに関し、自力救済は許されるか、刑事上どのような罪に問われるか、民事上の責任はどうなるかなどについて説明しました。

カスハラ問題については、本稿で取り上げた事例も含め、検討を要すべき法律上の問題点も多く、カスハラの実態を法律面から正しく理解する必要性が高まっているといえます。

カスハラ対応にお困りなら、ぜひ、カスハラ問題に精通する当事務所にご相談下さい。

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弁護士 能勢 章

この記事を監修した人

能勢総合法律事務所代表弁護士。
私は従業員の精神が破壊されないよう、当事者に寄り添い、事件を解決することで悩みや不安を和らげ、新たな第一歩を踏み出すお手伝いをしたいと考えています。

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