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カスハラ対策として、店の様子をライブ配信し、SNSで拡散するのは許されるか(キッチンDIVEの事例から)(下)

以下、「カスハラ対策として、店の様子をライブ配信し、SNSで拡散するのは許されるか(キッチンDIVEの事例から)(中)」の続きです。

(2)民事上の責任ついて

まず、民法上の不法行為である名誉毀損について検討します。

したがって、店側は、民法上、原則として、少なくとも過失により、ツイッターで拡散された者の名誉権を侵害したものとして、不法行為責任を負います(民法709条、710条)。

しかし、(1)で触れたように、カスハラ行為者が、多数の同業の店に対し、犯罪に当たるカスハラ行為を組織的に行う事態が想定されるのであれば、カスハラ行為の映像をツイッターで拡散することは、「事実の公共性」及び「目的の公益性」の両方の要件が認められるため、「真実性の証明」があるときは、その行為には違法性がなく、不法行為は成立しないことになります。

また、仮にカスハラ行為が犯罪であると証明できなくても、店側においてその事実を「真実だ」と信じるについて相当の理由があるときには、ツイッターでの拡散行為には故意又は過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解されます(最高裁判所判例)。

次に、肖像権について検討します。

店側がカスハラ加害者の映像をツイッターで拡散することが、「事実の公共性」及び「目的の公益性」の両方、あるいはその一方しか認められなければ、「社会通念上カスハラ加害者の利益を害するおそれがある」といえることになり、店側は、カスハラ加害者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超え、肖像権を侵害するものとして、不法行為責任を負う可能性があります(ブログ「会社が対抗手段としてカスハラ加害者の顔写真や動画をSNSなどで公開することは許されますか?(下)」参照)。

3 ②「常に店の様子をYouTubeで配信していること」は、個人情報保護法に反しないかについて

個人情報取扱事業者である店側は、カメラにより特定の個人を識別できる映像(顔写真)を取得する場合、個人情報を取り扱うことになるため、利用目的をできる限り特定し、その利用目的の範囲内でカメラの映像を利用しなければなりません(個人情報保護委員会・「個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます)についてのガイドライン」に関するQ&A(以下「ガイドラインQ&A」といいます)のA1-12・13)。

また、個人情報の利用目的を本人に通知し、又は公表しなければなりませんが、店の出入り口や店内に24時間ライブ配信を行っている旨の貼り紙をしている場合には、カメラの設置状況等から利用目的が防犯目的であることが明らかであると認められますから、「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」(個人情報保護法21条4項4号)に当たり、利用目的の通知・公表は不要と考えられます(「ガイドラインQ&A」A1-13)。

ところで、個人情報の映像を取得した場合には、個人情報保護の観点から慎重な扱いが求められ、個人情報保護法を順守し、特定の個人を識別できる映像を適切に管理し、個人情報が漏洩されないようにしなければなりません。

このように、個人情報保護法では、個人情報の取得と管理、第三者への公表は分けて考えられているため、その趣旨に照らし、来店客が店側に対し、映像の取得について承諾したとしても、その承諾は第三者への公表には及ばないと解されます。

したがって、店側が、店の出入り口や店内に24時間ライブ配信を行っている旨の貼り紙をした場合でも、個人情報保護法の趣旨からして、客の認識は、店内で発生した万引き等の犯罪の捜査のために、店が管理している映像を捜査機関に利用させることを容認しているにすぎないのであって、それ以上に、自己の個人情報がライブ放送により公表され、世間一般の目に晒されることまで承諾したものとは解されないのです。

弁護士 能勢 章

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弁護士 能勢 章

この記事を監修した人

能勢総合法律事務所代表弁護士。
私は従業員の精神が破壊されないよう、当事者に寄り添い、事件を解決することで悩みや不安を和らげ、新たな第一歩を踏み出すお手伝いをしたいと考えています。

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