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カスハラ加害者から「誠意を見せろ」と言われたら、どのような場合に犯罪が成立するのか?(上)

1 はじめに

「誠意を見せろ」という言葉は、テレビドラマなどでも耳にしますし、「誠意」という言葉自体、日常生活の中でも「誠意が足りない」「誠意を示さなきゃ」「誠意をもって対応しましょう」などと、頻繁に使われますので、特別な言葉ではないといえます。

しかし、どうでしょうか。顧客からの苦情の相談に乗っていた際、突然「誠意を見せろ」と言われたりしますと、一瞬、どう対処したらよいのか戸惑ってしまいますよね。そこに相手の狙いがあるのかも知れません。

一概には断定できないものの、相手が「誠意を見せろ」と言い出すに至った流れや状況によっては、相手には明確な意図があり、その意図を悟られないように、曖昧な言葉に置き換えて、こちらにお金の話を切り出させるための「誘い水」ということも考えられます。

しかし他方で、そのような意図がなく、正義感から、対応に問題があるから是正してほしいという趣旨での発言かも知れません。

また、実際には落ち度(ミス)があるため、何らかの対応をする必要があり、誠意(補償を含みます)を示したいと考えていた矢先に、顧客から「誠意を見せろ」と言われたため、カスハラが社会問題になっているのを機会として、クレーマー扱いにすることによって、責任を回避する口実にすることも考えられます。

このように考えてきますと、「誠意を見せろ」の発言の背景には、様々な事情があることがうかがわれますので、表面的にはカスハラ事案であっても、犯罪の成立との関係では慎重な検討が必要となります。

以下においては、このような点を踏まえ、カスハラ事案で「誠意を見せろ」と言われたときに、どのような場合だと脅迫罪などの犯罪が成立するかについて、説明することとします。

2 「誠意を見せろ」という発言には、どのような犯罪が成立するのか

「誠意を見せろ」と発言する場合、その「誠意」とは一般的に、どのような意味に理解されているのかを見ておきましょう。

おそらく、一般の人が「誠意を見せろ」という発言から思い浮かぶのは、➀お金、②債務免除とか支払猶予などの利益、③物品、④特別な扱い、⑤特別な対応、⑥特別な待遇の要求ということでしょう。

しかし、「誠意を見せろ」という発言から、上記の要求があったといえるためには、それに見合うだけの事情が確実に認められる必要があります。「誠意を見せろ」という発言だけでは、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し」害を加える旨を告知したことにはならないからです。

カスハラ事案において、「誠意を見せろ」という発言から想定できる犯罪としては、相手方に対する脅迫罪、恐喝罪又は強要罪が考えられます(親族に対する害悪の告知については除外します)ので、これらの罪の成立要件等について見ておきましょう。

脅迫罪は、相手方本人の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して、相手に恐怖心を感じさせるに足りる程度の脅迫をした場合に成立します(刑法222条1項)。

脅迫とは、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」することをいいます。

脅迫罪は、相手に恐怖心を感じさせるに足りる程度の害悪を告知しただけで成立し、実際に相手が恐怖心を感じたか否かは、犯罪の成否には無関係であると解されています。

恐喝罪は、相手を恐喝して、財物を交付させた場合(1項)、あるいは相手を恐喝して、財産上不法の利益を得又は他人にこれを得させた場合(2項)に成立します(刑法249条)。

恐喝とは、相手の反抗を抑圧しない程度の暴行・脅迫により相手に恐怖心を感じさせて、財物の交付や財産上の利益を要求することをいいます。

強要罪は、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合に成立します(刑法223条1項)。

ここで、脅迫罪、恐喝罪及び強要罪に共通している脅迫にいう「害悪の程度」について考えて見ましょう。

害を加える旨の告知が、相手に恐怖心を感じさせるに足りる程度のものと認められるかどうかは、どのようにして判断されるのでしょうか。

相手に不快感、困惑、気味悪さ、威圧感、漠然とした不安感を感じさせる程度のものでは足りません。

相手に告知した内容がまず考慮されます。そのほかに、告知の日時、告知の場所、告知の方法、相手の年齢、相手の体格、相手の経歴、相手の職業、告知する者とその相手との関係、告知する時のその場の状況、告知するに至った経緯、社会的情勢等の具体的事情を総合的に考慮して、害を加える旨の告知が、相手に恐怖心を感じさせるに足りる程度のものと認められるかどうかが判断されます。

以下、「カスハラを行う相手から「誠意を見せろ」と言われたら、犯罪は成立するか?(下)」に続きます。

弁護士 能勢章

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弁護士 能勢 章

この記事を監修した人

能勢総合法律事務所代表弁護士。
私は従業員の精神が破壊されないよう、当事者に寄り添い、事件を解決することで悩みや不安を和らげ、新たな第一歩を踏み出すお手伝いをしたいと考えています。

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