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カスハラに関する判例からカスハラ対策を考える(下)

以下、「カスハラに関する判例からカスハラ対策を考える(上)」の続きです。

1 Bスーパーマーケットに対する請求について

本判決は、Bスーパーマーケットの請求について、主に「カスハラ防止体制について」、「カスハラが生じた際の具体的対応について」の2つの側面から、安全配慮義務(使用者として雇用契約に基づき労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をすべき義務)を尽くしたか否かを判断しています。以下、Bスーパーマーケットが、この2つの側面について、事前にどのような措置を講じ、あるいはどのような対応をしていたのかを見てみましょう。 

(1)「カスハラ防止体制について」

Bスーパーマーケットにおいては、

  • ポイント付与について誤解に基づく申出や苦情を述べる顧客への対応について、入社時にマニュアル「テキスト」を配布し、苦情を申し出る顧客への初期対応を指導していたこと
  • 店舗マネージャーの不在時には、「サポートデスク」や近隣店舗のマネージャー、エリアマネージャーに連絡できる態勢がとられ、店員が接客でトラブルになったときの相談体制が整えられていたこと
  • 各店舗には、店舗マネージャーやエリアマネージャーの緊急連絡先や近隣店舗の連絡先が掲示されており、トラブル時に正社員に相談して、指導や対応を求める体制が整えられていたこと
  • 各店舗のレジカウンターに非常事態に備えて通報用の緊急ボタンが設置されており、従業員にこれを周知していたこと
  • 深夜の時間帯には2人以上の人員体制とし、接客トラブルに対応できるようにしていたこと

以上のカスハラ防止対策を講じていました。

(2) 「カスハラが生じた際の具体的対応について」

Bスーパーマーケットにおいては、

  • Aと顧客Cとのトラブルの際、Aの接客態度について指導する一方、顧客Cに謝罪するもAへの退職要求に応じず、関係が修復されるよう双方に働きかけたこと
  • Aに他店で1週間勤務させるなどしてトラブルを鎮静化させたこと
  • トラブルが再発した際には、入店拒否措置の可能性を顧客Cに伝え、その後顧客Cは来店しなくなったこと
  • Aと顧客Cとの間のトラブルを終息させるために考えられる策のうち穏便なものから順次実施し、その効果を上げていたこと

以上の対応をしていました。

(3) 本判決の結論

以上から結局、本判決は、Bスーパーマーケットにおいて、顧客への初期対応を指導していたほか、従業員が接客においてトラブルが発生した場合の相談体制が十分整えられていたこと、実際のトラブル発生後においては、トラブル解決に向け尽力していることが認められることから、従業員の安全を確保する体制等が十分整備されていたとして、Bスーパーマーケットは安全配慮義務に違反していないと判断し、当該従業員(A)のBスーパーマーケットに対する損害賠償請求を認めませんでした。

2 顧客Cに対する請求について

本判決は以下のように示してAの顧客Cに対する請求を認めませんでした。

顧客Cは、自己の気持ちをコントロールできず、Aの対応が誤りであると決めつけて、自己の考えを押し通そうとし、その行動は粗暴で周囲の人間をおびえさせるものではありますが、人間に向けた暴力を振るうものではなく、専ら不満を露わにするものであって、臨場した警察が犯罪行為として立件するようなものではありませんでした

Aは当初より、ポイントカードを出すことができなかった客の事情を考慮せず、自己の応対に誤りがないことを殊更に強調する物言いをしており、精算手順に誤りがないとしても、顧客への配慮に欠ける応対でいたずらに顧客に不快感を与えていました。

Aは心因反応と診断されて治療を受けていますが、顧客Cとはぶつかった方がやりやすいとも述べていて、顧客Cと遭遇する可能性がある店舗での勤務に復帰したことを見ても、顧客Cと衝突することを避けるのではなく、あえて対峙することを望んでいました。

以上によれば、顧客Cの行為がAに対する不法行為に当たるか疑問がある上、Aが心因反応の治療を受けたことを考慮しても、そのころのAの言動からは、顧客Cの行為によりAが精神的な傷害という損害を被ったとは認められないとしました。

したがって、本判決は、顧客Cの不法行為責任が成立せず、Aの請求を認めないとしました。

弁護士 能勢 章

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弁護士 能勢 章

この記事を監修した人

能勢総合法律事務所代表弁護士。
私は従業員の精神が破壊されないよう、当事者に寄り添い、事件を解決することで悩みや不安を和らげ、新たな第一歩を踏み出すお手伝いをしたいと考えています。

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