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カスハラに関する判例からカスハラ対策を考える(上)

カスハラ問題を扱った判例としては、東京地方裁判所平成30年11月2日判決があります。どのようなカスハラ対策を講じればいいかについての判例の考え方を示すもので、非常に参考になります。この判例について、これから2回に亘って詳しく説明していきます。

1 事案の概要

事案の概要は以下の通りです。

×月20日、Aは、Bスーパーマーケットで、レジを担当していたところ、顧客Cが商品を購入して精算を行いました。Aは、顧客Cに対して、ポイントカードの有無を確認しましたが、顧客Cはイヤフォンを付けていて聞こえていなかったのか、これに答えなかったため、ポイントを付与することなく、会計を終えました。Bスーパーマーケットでは、会計後にポイントの後付けができないルールがあるのですが、後になって顧客Cはポイントカードを出していないことに気が付いて、レジを担当していたAに対してポイント付与を求めました。これに対して、Aは会計後のポイント付与は認められないと答えてポイント付与を断るなどして、顧客Cとの間でトラブルになりました。顧客CはAに対し、「ポイント付けられないって何ですか?」、「ってか何でそんな言い方されなきゃいけないんですか。」、「上から目線でものを言うのか」などと騒いで、店舗マネージャーにAの謝罪を求めましたが、店舗マネージャーがこれに応じなかったところ、顧客Cは「Aを辞めさせた方がよい。」などと言い残して立ち去りました。

〇月2日、顧客Cが来店し、Aのネームプレートを見て「あなた、○○さんっていうんですか!?」と話しかけたところ、Aは「名乗る必要がない。」と大声で答えました。顧客Cは、Aの対応に怒って、他のレジ係に責任者を呼ぶよう求めたり、レジカウンターを叩いたり、蹴ったり、そこから身を乗り出すなどしました。Aはレジカウンターの通報ボタンを押し、警備会社を通じて警察に通報しました。その後警察官が来店し、その場を収めました。  

〇月3日、Bスーパーマーケットの担当責任者は、顧客Cに電話して謝罪を行いました。その場で顧客Cは、担当責任者に対し、Aを辞めさせるよう求めましたが、担当責任者はこれを断りました。

〇月6日、Bスーパーマーケットの担当責任者は、Aと面談して顧客CがAの直接の謝罪と退職を要求しているが、Bスーパーマーケットとしてはそのいずれに対しても応じないと答えたと説明しました。Bスーパーマーケットの担当責任者はAに対して、「申し訳ございませんが、今回会社のルールですので、後付けすることはできません。」と伝えるべきであったと注意しました。これに対して、Aは「イヤフォンを付けていた顧客Cが悪いから謝るのはおかしい。」との考えを示しました。また、Bスーパーマーケットの担当責任者は、Bスーパーマーケットの「お客さま第一」の理念を説示し、顧客とのトラブルを避けるように指導するなどしました。これに対して、AはBスーパーマーケットの「お客様第一主義」の理念がおかしく、Bスーパーマーケットの対応にも不満があることなどを述べました。

同日、Bスーパーマーケットの担当責任者は顧客Cに対して、Aに指導したことを報告し、改めて謝罪した。これに対して、顧客Cは、Aを退職させることや直接謝罪することを強く求めましたが、Bスーパーマーケットの担当責任者はこれに応じない旨伝えた。

〇月7日、Bスーパーマーケットの担当責任者は、警察にも一連のトラブルの説明をし、今後トラブルがあった場合に110番通報をすることを伝えました。警察からは、トラブルが続くようであれば、入店禁止措置を執ることも一つの手段であるとの助言を得ました。

〇月10日、店舗マネージャーがAと面談し、Aに他店舗に異動することを提案したところ、Aは「何で僕が逃げるんですか。」と抵抗しました。そのため、店舗マネージャーが1週間程度の暫定的な異動だと説得したところ、Aはこれを受け入れました。

〇月16日、Aは、クリニックを受診し、心因反応のため通院加療が必要と診断された。以後、同日を含めて合計9回クリニックを受診しました。

〇月17日、店舗マネージャーはAとの面談の際、顧客Cが来店を続けていることを受け、トラブルの再発を避けるため、暫定的に異動した店舗での継続勤務を提案しましたが、Aが顧客Cと「ぶつかった方がやりやすい。」などと述べた。店舗マネージャーは再度Aに不利益なことが起きかねないという懸念を伝えたが、Aは「それでよい。」と答えたため、Aを元の店舗に戻すことにしました。

△月13日、顧客Cは、Aのいる店舗に来店し、レジ対応をしたAの態度に怒り、「相変わらず何なんだよ、その言い方。」などと大声でAの対応を責め、Aと争いとなってしましいました。Bスーパーマーケットは、他の従業員から聴き取りを行った結果、Aのレジ対応に問題がなかったと判断し、その旨顧客Cに伝えるとともに、売場で大声を出すなど他の客に迷惑がかかる行為が続くのであれば入店を断る旨を伝えました。

2 訴訟でのAの請求内容

このような事案のもとで、Aは、Bスーパーマーケット及び顧客Cに対して、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。

まず、Aは、Bスーパーマーケットに対しては、Bスーパーマーケットには、①Aの勤務店又はそのエリアに顧客に丁寧に説明することができる正社員の配置、②深夜の時間帯にアルバイト2名のみで勤務させるのではなく、同店の店舗マネージャーの勤務又は他の正社員数名が直ちに同店舗に急行する体制の整備、③早期に「入店拒否措置」の対応をする義務があったが、これらを行わず、Aの就業場所を一時的に変更したにとどまり、その後の顧客Cの入店を制限することはなかったなどから、使用者として守るべき安全配慮義務に違反し、不法行為が成立すると主張しました。

また、Aは、顧客Cに対しては、買い物客が店員にする苦情の度合いを著しく超える理不尽な暴言及び乱暴な行為を加えたことから、顧客Cの行為が甲の権利を侵害する違法な行為になり、不法行為が成立すると主張しました。

次回、「カスハラに関する判例からカスハラ対策を考える(下)」で続きを記載します。

弁護士 能勢 章

 

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弁護士 能勢 章

この記事を監修した人

能勢総合法律事務所代表弁護士。
私は従業員の精神が破壊されないよう、当事者に寄り添い、事件を解決することで悩みや不安を和らげ、新たな第一歩を踏み出すお手伝いをしたいと考えています。

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