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カスハラ対策として、店の様子をライブ配信し、SNSで拡散するのは許されるか(キッチンDIVEの事例から)(上)

最近、店舗のカスハラ対策として、YouTubeで常に店の様子をライブ配信したり、カスハラ行為の映像をSNSで拡散したりするがあります。これらの対策によって、仮にカスハラ行為に及べば、カスハラ加害者の顔写真や行為が公表され、カスハラ加害者が世間の非難に晒されることで警鐘を鳴らすことを意図しているのかもしれません。

店側が、カスハラ対策として、YouTubeで常に店の様子をライブ配信したり、カスハラ行為の映像をツイッターで拡散したりすることには、どのような問題があるのでしょうか。

1 キッチンDIVEの事例について

上記のようなカスハラ対策を行い、報道によって有名になった事例としては、弁当店のキッチンDIVEの事例があります。

事案の概要は以下の通りです。

2021年5月25日午前3時20分ころ、東京都内の弁当店「キッチンDIVE」(亀戸)に、酒に酔った男性2人組が来店し、弁当や惣菜パックの山を前に‘あごマスク状態’で談笑しながら商品を選んでいました。この時間帯に勤務していた店員は、男女1名ずつでした。

同店では、以前はセルフの電子レンジを置いていましたが、新型コロナウィルスの感染防止対策として、電子レンジの前に客の列ができるなど混雑を防ぐため、電子レンジを撤去していました。

2人組は、弁当を温めるよう求めました。客の求めに対し、店員がレンジを置いていない旨答えると、2人組は激高し、「こんな店炎上させてやるからな」「なんやコラ、ガキ」などと暴言を吐き、小銭を店員に投げつけるなどの行為を行いました。

同店では、24時間店内をYouTubeで配信しており、上記のカスハラ行為も全て動画に残っていました。同店は上記のカスハラ行為の動画をSNS上で動画を載せたことで上記のカスハラ行為は広く拡散されてしまい、マスコミにも報道されることになりました。

確かに、上記の事案のカスハラ行為はひどいもので、同店が従業員を守るためにカスハラ対策を講じることには一定の合理性があるかと思います。

しかしながら、法律的な観点から見るとやや問題があると言わざるを得ません。

以下,➀「常に店の様子をYouTubeで配信していること」と②「カスハラ行為をSNSに載せて拡散したこと」とに分けて述べます。

2 ➀「常に店の様子をYouTubeで配信していること」について

店側が、ユーチューブで常に店の様子をライブ配信することは、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、仮に事実の摘示がなくても、不特定多数の人に、その客の顔のほか、行動の一部始終を認識させることになりますので、侮辱罪が成立する可能性があります。

刑法は、侮辱罪について「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」(231条)と定め、その人の社会的評価(名誉)を低下させた場合に犯罪が成立するとしています。

したがいまして、店側が、ライブ配信するだけであっても、不特定多数の人に、当該客の顔、年齢、服装、持ち物、お金の支払状況や所持金の模様、関心や興味を示した商品、買い求めた商品などから、当該客の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値についての社会的評価(名誉)を低下させるといえ、違法性が阻却されない限り、侮辱罪が成立する可能性があります。

そうだとしても、店側としては、ライブ配信はカスハラ対策や万引き防止の目的で行うものです。店側の自己防衛の観点から、予防のための撮影は、違法性が阻却されて侮辱罪が成立しないと考えることができないでしょうか。

まず、客の側についていえば、店内で客がとる通常の行動は基本的に商品を選んで購入することであって秘密性が高いものとはいえないこと、店員が配置されて客との対応に当たり、不特定多数の客が出入りする店においては個々の客の容貌や姿態、行動は常に人目に触れる状態に置かれていることなどから、そのような場所における肖像権や名誉権の保護は住居等のプライベートな領域におけるそれよりも相対的に低くなると言えるでしょう。

他方、店の側からすれば、来店した客や店員等の生命、身体等の安全を確保するとともに、自らの財産を守らなければなりません。そのため、それ相応の措置を講ずる必要があるといわなければなりません。

このような客と店双方の事情に加え、客の来店はあくまでも任意になされるものとはいえ、来店客の容貌や姿態、行動をその承諾なく撮影することによって、当該客の肖像権や名誉権を侵害する可能性があるのかもしれません。そのような場合であっても、犯罪に当たるカスハラ行為や万引きなどの犯罪の発生に備えて、店側の自己防衛の観点から、店員や来店客の生命・身体の安全や店の財産などを保護するために必要不可欠である場合には、正当防衛の法理により、予防目的での撮影は、違法性が阻却されると解されますから会社が対抗手段としてカスハラ加害者の顔写真や動画をSNSなどで公開するのは許されますか?(上)参照)、侮辱罪は成立しないことになります。

なお、侮辱罪は、親告罪とされており、撮影された映像をライブ配信された人からの告訴がなければ、起訴することができない犯罪になっています。そのため、告訴されない限り、処罰されることはありません。

以下、「カスハラ対策として、店の様子をライブ配信し、SNSで拡散するのは許されるか(キッチンDIVEの事例から)(中)」に続く。

弁護士 能勢 章

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弁護士 能勢 章

この記事を監修した人

能勢総合法律事務所代表弁護士。
私は従業員の精神が破壊されないよう、当事者に寄り添い、事件を解決することで悩みや不安を和らげ、新たな第一歩を踏み出すお手伝いをしたいと考えています。

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